勤務していた会社が、ある銀行から ATM つまり自動預金機の注文を戴いた。
このシステムでの一つの問題は、取引 (引出/預入) を通帳に印字する際、 通帳のどのページのどの行に印刷するかである。 ATM 導入後は、通帳の次回印字位置は通帳の磁気ストライプに記憶されているので、 問題はない筈だった。
既印刷行の上に二重印字すると前の取引の内容が消えるので、銀行としては絶対に許せない。 既印刷行の次に空行があると、銀行の信用にかかわる。
したがって、通帳の型いかんに関わらず、最後の既印刷行を確実に検出する必要がある。 検討の結果、通帳の各行を光学的にスキャンして既印刷行をスキップし、 最初に現れた空行に印刷するというのが結論だった。
この技術の開発を私が命じられたが、 見事に失敗した。私の能力不足もあるが、お偉いさんの一言もかなり関係する。 あるお偉いさんは顧客に向かって「端末のインクリボンは百万字まで使えます」と断言したらしい。
いつのまにか、旧型 ATM への対策の話が、新型 ATM でのリボン使用回数の話になった。 お偉いさんの「インクリボンは百万字まで使えます」との発言が重荷になった。 百万字まででも千万字まででも使えるのは確かだ。
しかし、印字品質の問題は別で、行検出の立場からは無理である。 リボンの使用初期にはかなり濃く印字され、紙の裏までにじみ出る。 百万字も印字したリボンでは印字が薄く、初期印字の裏からの透けよりも薄い。
光学的に濃淡を判別する方法では、既印刷行の検出は無理である、との結論に達した。 人間にはできるではないか、というのが偉い人達の言葉だが、無理なものは無理である。
元号が変わることがあり得ることに気付いたのもこのときである。
もちろん、旧型機にはカウンタは付いていないから印字濃度を管理することはできず、 新型機だけ数えたって無意味である。
そもそも、二重印字防止の立場から許容できるリボン印字数は非常に低く、 顧客の受け入れるところではなかった。
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First Written August 16, 2000
Transplanted to KSU Before May 20, 2003
Transplanted to So-net May 3, 2005
Last Update July 11, 2005